Duivekate

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『ダイフェカーター』は、「悪魔の牡猫」と呼ばれるパンの名前です。
なぜそんな名前がパンに付いているのか?どんなパンなのか?知りたくなりませんか?

数年前のある講演会に、こんなタイトルを見つけ、私はそのパンの正体を見たくなり、その講演会に訪れました。そして400年も前のその不思議なパンを、なんと作る機会を得たのでした。クリスマス菓子として名高いシュトレンと同様に、ヨーロッパでは長い間クリスマスに、特別なパンを焼く習慣があったのだそうです。それがこのパンでした。今では知る人もほとんどないようですが、シュトレンと同様に、その言い伝えや伝統には深い意味があったのだそうです。それは、今まで知らなかった、
クリスマスに秘められた世界でした。

 まずこの方をご紹介なくして、このお話は進みません。
舟田詠子氏「ダイフェカーター」の講演を開催された先生です。
長年にわたりパンの文化史を研究されており、ヨーロッパ各地で文献研究とフィールドワークをなっており、ご自身も1年の半分はヨーロッパで暮らし、日本に戻っては、楽しい講演会を開くなど、非常にアクティブな毎日を送られています。著書に『パンの文化史』『アルプスの村のクリスマス』『誰も知らないクリスマス』など多数あり、クリスマスの文化の研究にも、大変長い年月をそそがれています。(詳しくは是非、 http://homepage.mac.com/diedonau/index.htm  へ!)

舟田先生がこの「ダイフェカーター」という名のパンに出会った最初のきっかけは、1枚の絵だったそうです。絵の中に描かれた不思議なパンを見て、「なんだろう?」と思ったことから、その研究は始まったのだそうです。そして10年以上かけて、その結果をまとめられたと言う訳です。
その絵は「聖ニコラス祭」を祝う家庭風景を描いたものでした。私もその絵の写真を見せてもらいましたが、申し訳ない事に「これが問題のパンです」と指差されてもなお探してしまうほど、ごちゃごちゃとした日常の家の中に描かれていましたから、自分には、それがパンだということも分からないほどでした。
ダイフェカーターは、本来大きく焼かれるパンのようです。1本が2キロもあるでしょうか、小さなお子さんなら抱えて持つほどだったと聞きました。とても重たいずっしりしたパンです。表面は黒光りして、得体の知れない絵柄が切り込まれます。私も数回ほど忠実に再現して、焼き上げてみましたが、それを店に飾るとそれはそれは、おどろおどろしい雰囲気を漂わせ、大変人目を引きました。さて味ですが、意表を突く旨味があります。ちょっと心を和ませてくれる、菓子パンの部類だと思います。配合からも日持ちのするパンであった事が解ります。飾られてから食されたとするなら、日本なら「鏡もち」といったところかな〜?なんて連想をしました。

「ダイフェカーター」とは、訳すと「悪魔の牡猫」となるそうですが、この名前の由来も初めは分からなかったそうです。そのように、その講演会では現在に至るまでのダイフェカーターの謎が、臨場タップリに話され、舟田先生は未開の地に乗り込んだまるで冒険家の様でした。それはミステリアスであり、スリリングで、いろんな偶然も手伝いながら、謎は解き明かされて行くのです。先生のお人柄もあちこちに顔を覗かせ、大変あたたかな気持になる講演会でもありました。初めは名前すら分からなかった絵画の中のひとつのパンが、どんどんと沢山の出合いや感動を生み出しながら、その正体を明かして行く様は、なんとも興味深いだけでなく、まるでおとぎ話の様な心弾む展開だと、私は本当に眼を見張りながら話に聞きいった事を今でも思い出します。

また、講演会には歓談会が用意されており、なんと先生が手作りされたダイフェカーターを食させて頂く事が出来ました。実は先生は、1998年に実際にダイフェカーターを焼いているパン屋を突き止め、取材をされているのです。レシピも保有されてましたが、本物を食べた事があるほど重要な事はありませんから、私は身を乗り出していました。なぜなら私も時折お客様より「昔出会ったパンをもう1度食べたい」と依頼を受ける事がありますが、レシピだけでは本物と同じに作れないのが、まさにパンであるからです。胸を高鳴らせて、興味津々パンを口に運びました。初めて口にした、400年前のパンでした。先生は私がパン職人だと聞くと「恥ずかしいわ〜もっといつもは上手に焼くのよ」と、はにかんでお笑いになりました。よくお菓子やパンを作られるようで、どんどんと話が弾みました。
その時思いかけず、先生からダイフェカーターを焼いてもらいたいと依頼を受ける事になりました、パン職人としてこんな瞬間ほど嬉しい事はなかったです。自分も自分の手で作ってみたいと思っていましたから、また胸が高鳴ったのは言うまでもありません。後日正式にオリジナルレシピを受け取り、何度か試作を繰り返し、先生に評価頂きながら今に至り、先生のご承諾を得て実現しました。
ひとつの絵の中に描かれたパンを追い掛けることで、時代を逆走し その時代の中でそのパンがどのように扱われて来たかを知る事になるなんて、私は思いもよらなかったのでした。そこにはその時代の人々が「思ったり」「願ったり」した事が、託されてあり、パンに食としての文化以外のものがあった事を初めて知りました。思いもよらなかっただけでなく、『パンの文化史』と言う、新しい世界を知りました。他にも、絵の隅の床に落ちた小さな木の実一つでさえ、深い意味をもって描かれていると、先生は教えて下さいました。「絵は読むべきもの」であると本の中でも語っていらっしゃいます。
毎日毎日パンを焼いていますが、眼からウロコが落ちた瞬間でした。
そして、少しは学のあるパン屋になれたかも?なんて思ってみたりしています(笑)。

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今年のクリスマスは「シュトレン」と「ダイフェカーター」と共に、お過ごしになってはいかがでしょう?
そしてもしもっと詳しい「クリスマスの世界」が知りたくなったら、ぜひ舟田詠子著『誰も知らないクリスマス』(朝日新聞社)をご覧になって頂けたらと思います。本の宣伝をする様ですが(笑)、すべてのお話を簡単には説明できない難しさもあり、簡単に説明したら申し訳ない思いもありますので、本当におすすめの1册ですので、ぜひに!その他にも「シュトレン」についてや「モミの木を飾るのはなぜ」かなど、クリスマスの不思議がいっぱい書かれてあります。
あたたかなカフェと一緒にシュトレン.ダイフェカーターを楽しみながら、その本をひも解いてみてはいかがかなと思うばかりです。

*ダイフェカーターの販売は11/25〜12/25までの間、不定期製造となります
   infoにてお知らせ致しますので、どうぞご確認ください。 
by ZOPF | 2010-11-23 11:04 | Comments(6)
Commented by 34号 at 2010-11-30 09:48 x
今日図書館で本借りて来ました。先日現物はお店で拝見したのですが一角が祭壇のようになっていてちょっと空気の色が(笑)お味は読了後に挑戦したいと思います。
Commented by ZOPF at 2010-12-04 09:07
確かに....ですねW 
あのパンはそれが狙いWですのでね〜
お味の方は見た目とはかなりギャップが有りますよ〜〜〜
Commented by タカナカ at 2010-12-11 23:27 x
今日、ダイフェカーター大2本を朝一で購入してきました。
ほんのりお酒の味がして美味しいと家人にも好評です。

私も見た目と違ってフルーティーで美味しいと感じました。

お店の近くに住んでてよかった~。
Commented by ZOPF at 2010-12-13 13:56
ありがとうございました。
なにか不思議な美味しさが有ると私も思います!
Commented by ボーロ&こっこママ at 2010-12-14 10:38 x
先週末、久しぶりにお店に伺ったらダイフェカーターがあったので、即購入しました!嬉しくって家族に自慢して飾っていますが・・・どのタイミングでいただこうか、最初のナイフをなかなか入れられずまだ飾ってあります・・・
Commented by ZOPF at 2010-12-19 10:13
シュトレンほどは日持ちしませんのでお気をつけ下さいね。
もう召し上がって頂けたかな?W


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